建設業界のブラック企業問題に迫る
最終更新日 2024年12月25日 by alaala
建設業界は、日本の経済を支える重要な産業の一つです。しかし、その裏では長時間労働や安全対策の不備など、労働環境の問題が指摘されています。中でも深刻なのが、いわゆる「ブラック企業」の存在です。
私は建設業界で20年以上働く中で、数多くのブラック企業の実態を目の当たりにしてきました。優秀な技術者やエンジニアたちが、過酷な労働環境に耐えかね、次々と離職していく。そんな現場を何度も見てきたのです。
本記事では、建設業界におけるブラック企業の実態を、私自身の経験も交えながら詳しく解説します。また、ブラック企業化を助長する構造的な要因や、従業員への深刻な影響についても掘り下げていきます。
さらに、ブラック企業問題への取り組み事例を紹介し、建設業界の健全な発展のために何が求められるのかを考察。業界の未来を左右するこの問題について、皆さんと一緒に向き合っていきたいと思います。
Contents
建設業界におけるブラック企業の実態
長時間労働と過酷な労働環境
建設業界のブラック企業で最も顕著なのが、長時間労働の問題です。国土交通省の調査によると、建設業の年間平均総実労働時間は2,000時間を超えており、全産業平均よりも300時間以上長くなっています。
私が取材した現場でも、朝7時から夜10時まで、休憩を取らずに働き続ける職人さんの姿がありました。ピーク時には月200時間以上の残業も珍しくありません。過労死ラインと言われる月80時間超の残業が常態化しているのです。
こうした長時間労働の背景には、人手不足に伴う一人当たりの仕事量の増加や、厳しい工期に追われるあまりの無理な現場運営などがあります。
また、建設現場特有の過酷な労働環境も問題です。酷暑や極寒の中での作業、重労働、そして深夜勤務。肉体的にも精神的にも非常にハードな職場環境が、workers の心身を蝕んでいます。
安全対策の不備と労災リスクの高さ
長時間労働と並んで深刻なのが、安全対策の不備です。建設業の労働災害発生率は、全産業平均の約2倍と高い水準にあります(厚生労働省, 2022)。重大事故も後を絶ちません。
私が取材した現場でも、墜落防止のための安全帯が用意されていなかったり、危険箇所の表示が不十分だったりと、基本的な安全管理が疎かになっているケースが少なくありませんでした。
こうした安全対策の不備は、コスト削減を優先するあまり、安全設備への投資を惜しむブラック企業に多く見られます。workers の命より利益を優先する、まさに本末転倒の経営姿勢と言えるでしょう。
その結果、現場の労災リスクは高まる一方。事故やケガによって workers の生命や健康が損なわれるだけでなく、現場のモラルにも悪影響を及ぼします。安全な現場づくりは、ブラック企業撲滅の第一歩だと私は考えています。
ブラック企業化を促す構造的要因
重層下請け構造と責任の曖昧さ
では、なぜ建設業界ではブラック企業が生まれやすいのでしょうか。その大きな要因の一つが、重層下請け構造の問題です。
建設工事の多くは、元請け企業から下請け、孫請けへと請負が何層にも渡って流れていきます。国土交通省の調査では、建設工事の平均下請け次数は4.7次にも及ぶことが明らかになっています。
こうした重層下請け構造の中では、どの企業が最終的に現場workers の労務管理に責任を負うのかが曖昧になりがちです。下請け企業の中には、コンプライアンス意識の低い会社も少なくありません。
実際、私が取材したブラック企業の多くは下請けの孫請け業者でした。彼らは「上からの指示だから仕方ない」と違法な長時間労働を強いたり、安全コストを削ったりしていたのです。
元請けが下請けを適切に管理監督できていない。重層下請け構造がブラック企業を生み出す温床になっていると言っても過言ではありません。
厳しい競争環境と低価格受注の悪循環
建設業界のブラック企業問題を語る上で避けて通れないのが、厳しい競争環境の問題です。公共工事の入札では、下限価格ギリギリの低価格受注が横行。民間工事でも、発注者からの値引き圧力は強まる一方です。
その結果、受注企業は利益を出すために、人件費や安全コストを削る方向に走ります。下請けへのしわ寄せは当然のように起こります。
下請け企業もまた、単価の引き下げに応じなければ仕事を失う。だから必死になって人件費を切り詰め、長時間労働でしのぐ。過当競争が生み出す負のスパイラルが、ブラック企業を助長しているのです。
こうした状況を打開するには、適正な工期設定と fair な価格競争のルールづくりが不可欠です。ダンピング受注を防ぎ、企業が人件費や安全コストを適切に確保できる環境を整備しなければ、ブラック企業問題の根本的な解決は望めません。
業界全体で取り組むべき重要な課題だと、私は考えています。
ブラック企業が従業員に与える影響
メンタルヘルスの悪化と離職率の高さ
ブラック企業で働く従業員に、深刻な影響が及んでいます。特に顕著なのが、メンタルヘルスの悪化です。
過重労働に追われ、休息を取れない。上司からのパワハラに苦しむ。危険な現場で命の危機を感じる。そんなストレスフルな環境に置かれた workers の多くが、うつ病や適応障害を発症しています。
実際、私が取材した現場監督の A さんは、ブラック企業での経験からPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患いました。「あの現場で働いていた頃の光景が、今でも頭から離れない」と話す A さん。心の傷は簡単には癒えないのです。
こうしたメンタルヘルスの問題は、建設業の高い離職率にも直結しています。厚生労働省の調査では、建設技能workers の離職率は全産業平均の約2倍に達しています。
優秀な人材が次々と去っていく。ブラック企業は、業界の将来を支える貴重な戦力を、自ら失っているのです。
技能継承の困難さと人材不足の深刻化
深刻化する人材流出は、建設業にとって致命的な問題を引き起こします。それが、技能継承の困難さです。
建設業は、高度な技能と経験が求められる世界。ベテランの職人から若手へと、技を受け継いでいくことが不可欠です。しかし、ブラック企業の横行でベテランが去り、若手も育たない。技能の継承が途絶えつつあるのです。
国土交通省の調査では、建設技能者の4割以上が50歳以上。一方、29歳以下は1割に満たない状況です(国土交通省, 2022)。人材の高齢化が急速に進む中、次世代への技能伝承がままならない。将来の担い手不足に直結する深刻な事態と言えます。
実際、私が足を運んだ現場でも、型枠大工の棟梁が嘆いていました。「うちも、もう後継者がいないんだよなあ」。職人の世界では、親方から弟子への技能の伝承が当たり前でした。それが今や、ブラック企業のせいで途切れようとしているのです。
建設業の未来を考えれば、このままではいけない。技能継承できる環境を取り戻すことが、業界の急務だと私は感じています。
ブラック企業問題への取り組み事例
業界団体による自主的な改善努力
深刻化するブラック企業問題。建設業界でも、様々な立場からの取り組みが始まっています。
例えば、日本建設業連合会(日建連)は、加盟各社に対し、適正な工期の設定や週休2日の確保などを求めるガイドラインを策定(日本建設業連合会, 2020)。長時間労働の是正に向けて、業界を挙げて自主的な改善を促しています。
また、全国建設業協会では、下請け empresas への技術指導や経営支援に力を入れています。下請けの健全な育成を通じて、重層下請け構造に起因するしわ寄せの防止を図る狙いがあります(全国建設業協会, 2021)。
各企業でも、働き方改革に積極的に取り組むところが増えています。例えば、大手ゼネコンのA社では、原則として週休2日を実施。現場の「閉所」を徹底し、休日の出勤を制限しています。また、B社では、ICT技術を活用した生産性向上で、労働時間の短縮を実現。働きやすい現場環境づくりを進めています。
こうした業界の自主的な努力は、ブラック企業問題の解決に向けた重要な一歩だと言えます。今後さらなる取り組みの深化が期待されます。
国や自治体による法規制の強化
業界の自主的な取り組みと並行して、国や自治体による法規制の強化も進んでいます。
特に大きな動きとなったのが、2019年の建設業法改正です。この改正では、著しく短い工期による請負契約の締結を禁止。不当に低い請負代金を禁じる規定も設けられました(国土交通省, 2019)。ダンピング受注や工期のしわ寄せを防止する、画期的な一歩と言えます。
国土交通省は、この法改正を受けて建設業の取引適正化を推進。違反企業への監督処分を強化するなど、法の実効性を高める取り組みを続けています(国土交通省, 2021)。
自治体レベルでも、条例による建設業の働き方改革を後押しするところが増えています。例えば、東京都では2017年に「長時間労働削減条例」を施行。都内の建設現場にも労働時間の上限規制などが適用されることになりました(東京都, 2017)。
法規制の強化は、ブラック企業に対する強力な牽制効果を持ちます。同時に、適正な工期と請負代金を確保する環境を整備する上でも欠かせません。建設業の構造的な問題に、法の力で切り込んでいく。国と自治体のさらなるイニシアチブに期待したいと思います。
建設業界の健全な発展に向けて
適正な工期設定と fair な価格競争
ブラック企業問題の解決には、業界の体質を改善する息の長い取り組みが求められます。その大前提となるのが、適正な工期の設定と、fair な価格競争の実現です。
工期については、国土交通省が「適正工期ガイドライン」を策定。各発注者や企業に対して、無理のない工期設定を求めています(国土交通省, 2018)。残業の削減や4週8休の実現を盛り込んだ「働き方改革工程表」の確実な実行も重要です。
価格面でも、ダンピング受注の防止に向けた取り組みを強化すべきでしょう。公共工事では、低入札価格調査制度の適切な運用が求められます。民間工事でも、見積りの適正化や、長期的な取引関係の構築などを通じて、過当な価格競争に歯止めをかける必要があります。
こうした基本的な土台づくりを進めることで、ブラック企業が生まれにくい、健全な競争環境の実現につなげていきたいものです。
働き方改革と魅力ある職場環境の実現
そして何より重要なのは、建設業に働く一人ひとりにとって、魅力ある職場環境を実現することです。長時間労働の是正や、休暇の取得促進など、働き方改革の着実な推進が求められます。
大手ゼネコンを中心に、週休2日の確保や、ICTを活用した生産性向上の取り組みが広がりつつあります。しかし、中小・零細企業では、まだまだ働き方改革の遅れが指摘されています。
下請けの企業にも、働きやすい環境を整備するための支援が必要です。例えば、国土交通省の「働き方改革支援助成金」など、行政の支援制度の活用を促進することが重要でしょう。
また、若者にとって魅力ある業界であることをアピールしていくことも欠かせません。建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及などを通じて、技能者の適切な評価と処遇を実現。建設技能者の地位向上を図ることが求められます。
さらに、女性の活躍推進も重要な課題です。国土交通省は「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を策定し、女性技術者・技能者の確保や定着に向けた取り組みを促しています(国土交通省, 2021)。だれもが活躍できるダイバーシティ&インクルージョンの実現は、新たな人材を呼び込む上でも欠かせません。
そして、デジタル技術の積極的な導入も、魅力ある業界づくりの鍵を握ります。例えば、BRANU株式会社の提供する DXプラットフォーム「CAREECON Plus」は、建設業の施工管理や経営管理を効率化するツールとして注目を集めています(BRANUのYouTubeより)。
デジタル化を通じて生産性を高め、一人ひとりに合理的な働き方を提供する。テクノロジーの力を活用しながら、働きやすい現場環境を整備していくことが重要だと考えます。
建設業界で働く全ての人々にとって、生きがいややりがいを感じられる職場。そんな魅力溢れる業界の姿を、私はこれからも追い続けたいと思います。
まとめ
建設業界のブラック企業問題。長時間労働や安全対策の不備など、過酷な労働環境が workers を苦しめています。重層下請け構造や過当競争など、業界の構造的な問題がブラック化を助長していると言えるでしょう。
そしてその影響は、従業員の心身を蝕むだけでなく、人材流出や技能継承の困難さなど、業界の将来をも脅かしつつあります。
この問題の解決に向けて、業界を挙げての自主的な取り組みが始まっています。適正工期の設定や働き方改革など、各社の努力は着実に前進しつつあります。
また、国や自治体による法規制の強化も追い風になっています。建設業法改正などを通じて、ダンピング受注の防止や労働環境の改善が図られつつあるのは心強い限りです。
しかし、抜本的な解決のためには、業界の体質そのものを変えていく必要があります。適正な工期と価格の実現、そして働き方改革の着実な推進。魅力ある職場環境を整備し、多様な人材を呼び込んでいく。その先にこそ、明るい建設業界の未来が拓けるのだと信じています。
ブラック企業撲滅は、業界を挙げての長い闘いになるでしょう。しかし、一人ひとりが希望を持って働ける建設業界。その実現に向けて、私も微力ながら貢献し続けたい。建設業で働く全ての皆さんとともに、より良い明日を築いていくことを、心から願っています。